2024年7月時点で、マイナンバーカードを健康保険証として利用できる「マイナ保険証」の利用率はわずか11.13%にとどまっています。導入から約3年が経過しましたが、普及は十分とは言えません。では、なぜこれほどまでに普及が進まないのでしょうか。本記事では、マイナ保険証の概要や利便性、さらに普及の妨げとなっている課題について解説します。
1. マイナ保険証の概要
マイナ保険証は、従来の健康保険証に代わり、マイナンバーカードを用いて医療機関や薬局での受診や薬の受け取りができる仕組みです。2024年12月2日をもって従来の健康保険証の新規発行が終了し、2025年には完全に廃止される予定です。既存の健康保険証は記載されている有効期限まで利用可能ですが、最終的にはマイナ保険証に移行することになります。
この移行には3つの主要な目的があります。
1.1 デジタル化の推進
マイナ保険証導入の背景には、以下の3つのデジタル化の目的が存在します。
- ペーパーレス化:紙の健康保険証を廃止することで、資源の節約や事務処理の効率化が期待されます。
- データ活用の促進:医療情報をデジタル化することで、医療の質の向上や政策立案に資するデータを蓄積できるようになります。
- 個人情報保護の強化:マイナンバーカードのICチップにより、従来の健康保険証よりも高いセキュリティが確保され、個人情報の保護が強化されます。
2. マイナ保険証の利便性と医療システムの効率化
マイナ保険証の導入により、患者と医療機関の双方に大きな利便性がもたらされます。
2.1 オンライン資格確認の利点
マイナ保険証の利用に伴い、医療機関や薬局では保険資格確認がオンラインで即時に行えるようになります。これにより、従来の保険証における事務処理の手間が大幅に軽減されます。特に、高額療養費制度における限度額の適用がスムーズになり、患者の経済的負担も軽減される点が大きなメリットです。
2.2 医療情報の一元管理と手続きの簡素化
マイナポータルを利用することで、診療情報や処方薬のデータが一元的に管理され、患者は自分の医療情報を容易に確認できるようになります。また、転職や引越しなどによる健康保険証の切り替えが不要になり、手続きが大幅に簡素化されます。さらに、確定申告時の医療費控除手続きも自動化され、医療費の記録をオンラインで確認しながら申告ができるため、従来の手間を削減できます。
3. なぜ普及が進まないのか?
導入から約3年経過しても、マイナ保険証の利用率が11.13%にとどまる理由は何でしょうか? その背景にはいくつかの要因が考えられます。
3.1 デジタルデバイド
デジタル化に慣れていない高齢者や、インターネット接続が不安定な地方在住者にとって、マイナンバーカードの利用はハードルが高い場合があります。特に、高齢者にはマイナンバーカードやシステムの操作方法に関する十分な説明やサポートが必要です。このようなデジタルデバイド(技術格差)への配慮が欠けていることが、普及の遅れに影響していると考えられます。
3.2 システム未導入の医療機関の存在
2024年3月31日時点で、オンライン資格確認システムを導入している医療機関は91.2%に達していますが、全ての医療機関でマイナ保険証が利用できるわけではありません。システム導入が進んでいない医療機関では、依然として従来の健康保険証が必要です。こうした部分的なシステム整備の遅れも、利用者がまだマイナ保険証に切り替えない一因と考えられます。
4. マイナ保険証のデメリット
マイナ保険証には利便性がある一方で、いくつかのデメリットやリスクも存在します。
4.1 個人情報漏洩リスク
マイナンバーカードを医療機関に持参する必要があるため、紛失した場合に個人情報が漏洩するリスクが増加します。特に、医療機関でカードを取り忘れた場合や、カードリーダーから取り出すのを忘れた際に発生するリスクが懸念されています。
4.2 システムエラーによる影響
マイナ保険証はオンラインシステムに依存しているため、システムエラーや災害などによるシステムダウンが発生すると、マイナ保険証を使用できなくなる可能性があります。これにより、緊急時の医療受診に支障をきたすことも考えられます。
4.3 再発行に時間がかかる
マイナンバーカードを紛失した場合、再発行には1~2ヶ月の時間がかかることがあります。この間は健康保険証としての機能を一時的に失い、医療機関での利用が難しくなることもあるため、再発行プロセスの迅速化が望まれます。
5. 今後の改善と普及のための課題
マイナ保険証の普及を促進するためには、デジタルデバイドの解消やシステムの改善、セキュリティ対策の強化が不可欠です。
5.1 デジタルデバイドへの対策
高齢者やデジタル技術に不慣れな層には、より手厚いサポートが必要です。地域ごとの説明会や、オンライン、対面サポートを充実させることで、使い方に不安を抱えている人々のサポートを強化することが求められます。
5.2 セキュリティ強化
個人情報漏洩リスクを抑えるため、より高度なセキュリティ対策が求められます。特に、紛失時の対応や再発行プロセスの簡素化と迅速化が求められます。さらに、オンラインシステムがダウンした際のバックアップ体制の整備も必要です。
6. 結論
マイナ保険証は、医療の効率化や利便性の向上、データ活用を促進する新しい健康保険証として期待されています。しかし、現時点ではデジタルデバイドやシステムの整備不十分、個人情報漏洩のリスクなど、多くの課題が残されています。これらの課題に取り組むことで、より多くの人々が安心してマイナ保険証を利用できるようになり、普及が進んでいくことが期待されます。
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