はじめに|日本における男性の育児参加の現状
近年、共働き世帯の増加に伴い、夫婦で育児を分担する意識が高まっています。しかし、日本では依然として男性の育児参加率が低く、2023年度の男性の育児休業取得率は30.1%にとどまり、女性の84.1%と大きな差があります。この格差は、社会の価値観や職場環境、制度の課題など、さまざまな要因が影響していると考えられます。
本稿では、男性の育児参加が進まない背景を掘り下げ、その課題を明らかにし、現実的な解決策を探ります。
1. 男性の育児参加が進まない理由
日本では、男性の育児参加が進まない背景には、労働環境、社会的価値観、制度の課題が複雑に絡み合っています。特に、長時間労働の文化は根強く、OECDのデータによると、日本の男性の年間労働時間は1,700時間を超えており、仕事と家庭の両立が困難な状況が続いています。特に、労働時間の調整が難しい業界では、育児参加が制限されやすいのが現状です。
また、経団連の調査では、約45%の企業が「長期間の不在が昇進や評価に影響を与える可能性がある」と回答しており、育休取得がキャリアに悪影響を及ぼす懸念が広がっています。この背景には、年功序列型の評価制度や、長時間労働を「熱意」や「責任感」として評価する文化が影響していると考えられます。そのため、男性が育休を取得すると「昇進の遅れ」や「責任感の欠如」と見なされることがあり、結果として育休取得をためらう要因になっています。
さらに、日本社会には「育児は女性の役割」という価値観が依然として強く残っています。2023年度の調査では、女性の61%がこの考えを支持しており、特に高齢層ではその意識が顕著です。こうした価値観は企業文化にも影響を与え、育休取得の前例がない職場では、男性が育休を申請しづらい雰囲気があると感じるケースが多く、これが心理的な障壁となっています。結果として、「男性が育児に関与するのは特別なケース」と認識されやすく、一般化しにくい環境が続いています。
制度面の課題も依然として多く、日本の育児休業制度は法的には整備されているものの、実際の運用面では課題が残されています。厚生労働省の調査では、男性の61%が「育休を取得しづらい雰囲気がある」と回答しており、特に中小企業ではこの傾向が顕著です。多くの中小企業では、一人の社員が複数の業務を担当しており、業務の引き継ぎが難しいため、育休取得が困難になっています。さらに、22.1%の男性が「自分にしかできない業務があるため育休取得が難しい」と回答し、54%の企業が「人手不足のため育休取得が難しい」と指摘しています。このように、人的リソースの確保が難しい企業では、育休取得が現実的に困難な状況が続いています。
これらの問題を解決するためには、企業の制度改革とともに、社会全体の意識改革が求められます。具体的には、労働環境の改善や評価制度の見直し、育休取得の前例を増やす取り組みが重要です。育休取得が企業や従業員にとって前向きな選択肢となるような仕組み作りが必要とされています。
2. 世界の育児事情|北欧・ドイツの成功例と比較
スウェーデンでは1974年に男女共通の育児休業制度を導入し、その後1995年には「パパ・クオータ(父親枠)」を導入しました。この制度では、父親が一定期間の育休を取得しなければ、家族全体の育児給付が減額される仕組みになっています。これにより、男性の育児休業取得率は90%を超え、育児が母親だけでなく父親にとっても当たり前の役割となる文化が形成されました。さらに、育休中の所得補償が約80%と高水準であることが、経済的な負担を軽減し、育休取得を後押ししています。また、政府の継続的な広報活動や企業への奨励策が、この制度の定着をさらに促進しています。
一方、ドイツでは2007年に「エルテルンツァイト(両親時間)」制度を導入し、両親が最大3年間の育児休業を取得できる仕組みを整えました。この制度では、育児休業期間中も一定の所得補償があり、特に最初の14か月間は「エルテルンゲルト(両親手当)」として給与の65~67%が支給されます。また、ドイツでは「パートタイム育児休業」も認められており、週数日だけ働くことが可能で、企業側もこの制度を積極的に支援する傾向にあります。これにより、男性も仕事を継続しながら育児に関与しやすい環境が整っています。さらに、一部の企業では、育休後の復職支援プログラムを導入し、キャリア形成と育児の両立を促進する動きも見られます。例えば、大手企業では、復職後の短時間勤務やリモートワークを活用することで、育児との両立を実現しやすくしています。このように、政策と企業努力の両面から支援を行うことで、育児休業の取得がスムーズに進んでいるのです。
3. 男性の育児参加を促進するための解決策
日本においても、企業文化の改革、政府の支援強化、社会全体の意識改革が進められています。企業では、管理職の育休取得を推進し、これをキャリア評価の一環として位置付けることで、育休取得が不利益とならない環境を整える動きが広がっています。また、短時間勤務やリモートワークの導入を進め、育児と仕事の両立を可能にする柔軟な働き方を提供する企業も増えており、育休取得後のスムーズな復帰を支援するための段階的な復職プログラムや時短勤務制度が導入されるケースも見られます。
政府の支援としては、2022年に育児・介護休業法が改正され、出生直後8週間以内に最大4週間の育休を分割取得できる「産後パパ育休(出生時育児休業)」が導入されました。また、2023年には育児休業給付の拡充が行われ、育休中の所得補償が強化されています。さらに、男性の育児休業取得率向上を目指し、企業への助成金制度も拡大され、一定の育休取得率を達成した企業には奨励金が支給される制度が導入されました。また、2023年には育児休業給付の拡充が行われ、育休中の所得補償が強化されています。さらに、男性の育児休業取得率向上を目指し、企業への助成金制度も拡大され、一定の育休取得率を達成した企業には奨励金が支給される制度が導入されました。
社会全体の意識改革としては、厚生労働省が「イクメンプロジェクト」を推進し、男性の育児参加を促進する広報活動を実施しています。また、一部の自治体では、父親向けの育児支援プログラムの実施や、地域社会での育児環境整備の推進が進められています。こうした施策が、男性の育児参加を後押しし、社会全体の意識を変えていくための重要な基盤となっています。
まとめ|男性の育児参加がもたらす未来
企業・政府・社会が連携し、「男性が育児に積極的に関わることが当たり前」となる環境を整えることが、少子化対策や男女平等の実現につながります。近年、日本国内でもこうした動きが加速しており、企業の取り組みとしては、男性の育休取得率向上を目的とした「男性育休100%宣言」や、取得を促進するための社内研修、育児サポート制度の整備が進んでいます。例えば、大手IT企業では、育休取得者への手厚い復職支援や、育児と両立しやすい短時間勤務制度を導入し、男性の育休取得を後押ししています。
また、一部の自治体では、父親向けの育児講座を開催し、地域社会全体で育児を支える仕組みを構築する動きが広がっています。これにより、男性が家庭でも育児に積極的に関われる環境が整いつつあり、企業や自治体の連携による支援策の強化が求められています。
これらの取り組みを通じて、男性が育児に関与しやすい社会を築くことが重要であり、今後も継続的な制度改革や意識改革が必要とされています。