「解雇規制の緩和」が自民党総裁選の重要争点の一つとして浮上しています。この問題について、各候補者の意見は分かれていますが、特に河野太郎氏と小泉進次郎氏が前向きな姿勢を示しています。
河野氏は「解雇の金銭解決制度」の導入に積極的です。彼は労働市場の流動性を高めるために解雇規制の緩和を支持し、企業の柔軟な人員調整が経済成長とイノベーションを促進すると主張しています。
小泉進次郎氏の方針は、解雇規制の一部見直しに重点を置いています。彼は労働市場の流動性向上により企業の競争力を強化し、経済成長を促進することを目指しています。また、中小企業の人員不足対策の側面も考慮し、労働者の権利にも配慮しています。小泉氏は単純な解雇緩和ではなく、バランスの取れた改革を進めたい姿勢を示しています。「解雇の自由化」という表現には慎重で、完全な規制撤廃には反対の立場を取っています。
一方、高市早苗氏は「日本の解雇規制は主要7カ国(G7)で比較しても緩い方だ」と述べ、小泉進次郎氏の解雇規制緩和案に疑問を呈しています。他の候補者は具体的な立場を明確にしていませんが、国民の失業不安や労働組合からの強い反発が予想されるため、多くは慎重な姿勢を取っているようです。
「懲戒解雇」が焦点
解雇には「普通解雇」「整理解雇」「論旨解雇」「懲戒解雇」の4種類があります。「普通解雇」と「整理解雇」は会社都合によるもので、「論旨解雇」と「懲戒解雇」は労働者側の問題(不良行為など)が原因となります。
今回の焦点は「整理解雇」です。これは経済界から長年要望があったものです。従業員の採用と解雇が柔軟になれば、企業は必要な人数を、必要な時に、必要な期間だけ雇用でき、余剰人員を最小限に抑えられるからです。
解雇規制は労働契約法第16条に明文化されています。「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定められています。労働関係の法律だけでなく、労働協約・就業規則に違反する解雇や、信義則・権利の濫用・公序良俗に反する解雇も民法の規定により禁止されています。
解雇規制の緩和が必要とされる理由
日本の企業には、社内で仕事を見つけられないいわゆる「社内失業者」が400万人もいると言われています(『貧乏国ニッポン―ますます転落する国でどう生きるか』)。解雇規制緩和を主張する理由は、これらの人材を流動化させることで生産性を向上させ、中小企業の人材不足解消にもつながるというものです。
しかし、規制緩和が実際に生産性向上や人材不足解消につながるかは疑問が残ります。人材過剰は一部の大企業に限られる一方、建設、農業、運送、介護などの分野では人手不足が深刻化しています。労働スキルのミスマッチなどの問題により、人材の流動化は容易ではないのが現状です。
さらに、解雇規制の緩和は労働者の権利や生活の安定性に重大な影響を及ぼす可能性があります。日本社会では終身雇用の概念が根強いため、急激な変化は社会的混乱を招く恐れがあります。この複雑な問題には慎重かつ包括的なアプローチが求められます。そのため、解雇規制の緩和を検討する際は、労働市場の流動性向上と労働者の権利保護のバランスを慎重に取ることが極めて重要だと考えられます。